【初心者向け】定年後の資産、どう使う?賢い取り崩しの基本を解説
定年後の生活資金、どう使っていくかが大切です
現役時代は、収入の中からいかに貯蓄や資産運用をするかに意識が向きがちです。しかし、定年退職を迎え収入の大部分が公的年金中心になると、今度は貯めた資産をどのように使っていくか、つまり「取り崩していくか」が非常に重要な課題となります。
漠然と「貯金があれば大丈夫だろう」と考えていても、計画なくお金を使ってしまうと、予想よりも早く資産が尽きてしまうリスクもゼロではありません。定年後の長い期間を安心して暮らすためには、資産形成と同じくらい、賢い「取り崩し」の計画が必要なのです。
この記事では、定年後の資産を取り崩す際の基本的な考え方や、知っておきたいポイントについて分かりやすく解説します。
なぜ「取り崩し」の計画が必要なのでしょうか?
定年後の生活費は、主に公的年金でまかない、不足分を貯蓄や運用資産から補っていくことになります。この「不足分」をどのように、どのくらいのペースで引き出していくか。これが取り崩しの計画です。
計画が必要な主な理由は以下の通りです。
- 資産の枯渇リスクを抑える: 無計画な取り崩しは、将来的に資産が底をつくリスクを高めます。計画を立てることで、想定される寿命まで資産を持たせる「資産寿命」を延ばす可能性が高まります。
- 将来の不安を軽減する: 計画があることで、「このペースで使えば大丈夫」という安心感が生まれます。不確実性の高い老後生活において、経済的な見通しが立つことは精神的な安定につながります。
- 資産を効率的に活用する: ただ漠然と使うのではなく、計画的に取り崩すことで、時には運用を続けながら資産全体を効率的に使うことも視野に入れられます。
取り崩しの基本的な考え方:定額?定率?
資産を取り崩す方法には、いくつかの基本的な考え方があります。代表的なものをいくつかご紹介します。
定額取り崩し
毎月または毎年、決まった金額を取り崩していく方法です。
例えば、「毎月20万円を生活費として使う」と決めた場合、年金収入が15万円なら、不足分の5万円を貯蓄などから取り崩す、といった形です。
- メリット: 支出計画が立てやすく、家計管理がしやすいです。
- デメリット: 資産の増減に関わらず同じ金額を取り崩すため、資産が大きく減った局面でも取り崩し額は変わりません。市場が不調な時に資産を売却することになり、資産の回復を妨げる可能性があります。また、インフレが進むと実質的な購買力が低下する可能性があります。
定率取り崩し
毎月または毎年、資産総額の一定割合を取り崩していく方法です。
例えば、「資産総額の4%を毎年取り崩す」と決めた場合、年初の資産が5,000万円なら年間200万円(月約16.7万円)、翌年初の資産が運用によって5,200万円に増えていたら年間208万円(月約17.3万円)を取り崩す、といった形です。資産額に応じて取り崩し額が変わります。
- メリット: 資産が増えれば取り崩し額も増え、資産が減れば取り崩し額も減るため、資産の状況に合わせて柔軟に対応できます。資産寿命が比較的長くなる傾向があると言われています。
- デメリット: 毎年の取り崩し額が変動するため、家計管理がやや難しくなる可能性があります。市場の変動によっては、期待したほど取り崩せない年もあるかもしれません。
その他の考え方
- 必要に応じて取り崩し: 決まった金額や割合ではなく、その時々の支出やイベント(旅行、リフォームなど)に応じて必要額を取り崩す方法です。計画性は低いですが、自由度は高いです。ただし、資産の残高を常に意識する必要があります。
- 寿命を基にした計算: 残りの人生(期待余命など)と資産額から、年間いくらまでなら使えるかを計算して取り崩す方法です。例えば、「資産5,000万円をあと25年間で使いたい」なら、年間200万円+運用益などを考慮して計算します。
ご自身のライフスタイルや性格、保有資産の状況に合わせて、これらの考え方を組み合わせたり、アレンジしたりして計画を立てることができます。
「資産寿命」という考え方を理解する
資産寿命とは、「保有している資産が、特定の取り崩しペースで何年持つか」を示すものです。定年後の生活を考える上で、非常に重要な視点です。
例えば、退職時に5,000万円の金融資産があり、公的年金だけでは不足する分として年間200万円を資産から取り崩すとします。単純計算では25年で資産が尽きるように見えますが、これは資産を全く運用しない場合の話です。
資産の一部を運用しながら取り崩す場合、運用益が得られれば、その分だけ資産の減少スピードを緩やかにできます。つまり、運用を続けることで資産寿命を延ばせる可能性があるのです。
ただし、運用にはリスクが伴います。特に、取り崩しを開始した直後に市場が大きく下落すると、資産の減少が加速してしまう「連続リターンのリスク」にも注意が必要です。
資産の取り崩し計画を立てるステップ
では、具体的にどのように取り崩し計画を立てれば良いでしょうか。
- 毎年の支出と収入を見積もる: 定年後の生活費(住居費、食費、光熱費、医療費、趣味娯楽費など)が年間いくらくらいになるかを具体的に見積もります。次に、公的年金などの年間収入を見積もります。
- 不足額を確認する: 年間支出から年間収入を差し引き、年間いくら資産から取り崩す必要があるかを確認します。
- 取り崩し方法の基本方針を決める: 定額、定率など、どのような考え方で取り崩すかの方針を決めます。
- 資産の構成を考える: どの資産(預貯金、投資信託、株式など)から優先的に取り崩すか、あるいは運用を続けながら取り崩す割合などを検討します。一般的には、すぐに使うお金は預貯金に置き、当面使う予定のないお金は運用に回しておく、といった考え方があります。
- シミュレーションする: 設定した条件(資産額、年間不足額、取り崩し方法、運用利回りなど)で、資産が何年持つかを簡易的にシミュレーションしてみます。インターネット上には、こうしたシミュレーションができるツールも存在します。
- 定期的に見直す: 計画は一度立てたら終わりではありません。毎年の資産額の変動、生活費の変化、体調の変化などに応じて、定期的に計画を見直すことが大切です。
運用を続けながら取り崩す場合の注意点
定年後も資産寿命を延ばすために運用を続けることは有効な選択肢の一つです。しかし、注意点があります。
- リスク管理: 運用によって資産が減るリスクも存在します。特に、定年後の資産は生活資金そのものですから、現役時代よりもリスクを抑えた運用を考える方が多いかもしれません。ご自身の「リスク許容度」をしっかり理解し、無理のない範囲での運用にとどめることが重要です。
- 市場の変動への対応: 市場が下落した局面で無理に多くの資産を取り崩すと、資産の回復が難しくなる可能性があります。このような状況に備えて、数年分の生活費はリスクの低い預貯金などで確保しておく、といった対策も考えられます。
結論:計画的な「取り崩し」で安心な老後を
定年後の生活資金に関する不安は、多くの方が抱えるものです。しかし、資産形成と同じように、資産をどのように「取り崩していくか」を計画することで、その不安を大きく軽減することができます。
まずは、ご自身の定年後の生活費がどのくらい必要になりそうか、そして公的年金などの収入がいくら見込めるのかを確認することから始めてみましょう。そして、不足分をどのように資産から引き出していくか、いくつかの方法を参考にしながら、ご自身の状況に合った計画を立ててみてください。
計画は一度立てたら終わりではなく、定期的に見直しを行うことが大切です。ご自身の資産やライフスタイルに合わせた計画的な取り崩しを行うことで、定年後の生活をより安心して送ることができるでしょう。