【初心者向け】退職金の受け取り方と使い方の基本 どうするのが一番良い?
退職金は、長年の勤労を終えた際に受け取る大切な資産です。この退職金をどのように受け取り、どのように活用するかは、その後の人生、特に老後生活を大きく左右する重要な選択となります。
「退職金は一時金で全部もらうのがいいの?」「年金形式でもらった方が得なの?」「何に使うのが正解?」など、様々な疑問や不安を感じている方もいらっしゃるかもしれません。
この記事では、退職金の基本的な受け取り方や、それぞれの税金について、そして退職金を定年後の人生のために賢く活用するための考え方について、初心者の方にも分かりやすく解説します。ご自身の状況に合わせて、退職金とどのように向き合うべきか考えるヒントにしてください。
退職金の主な受け取り方は3つ
退職金の受け取り方には、主に以下の3つの方法があります。会社の退職金規定によって、どの方法が選べるかは異なりますが、多くの場合は複数の選択肢が用意されています。
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一時金としてまとめて受け取る
- 退職時に、退職金の全額を一度に受け取る方法です。
- まとまった資金をすぐに手に入れることができるため、住宅ローンの返済や大きな支出(リフォーム、旅行など)に充てやすいというメリットがあります。
- 税制上、他の所得とは別に「退職所得」として扱われ、有利な「退職所得控除」という制度が適用されるため、税負担が軽減される可能性が高いです。
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年金として分割して受け取る
- 退職金を一時金として受け取らず、会社の退職金制度や確定給付企業年金、確定拠出年金(企業型DCやiDeCo)などの制度を通じて、定期的に(例えば毎月や毎年)分割して受け取る方法です。
- 計画的に収入が入ってくる安心感があり、浪費を防ぎやすいというメリットがあります。
- 税制上、「公的年金等の雑所得」として扱われ、他の公的年金(国民年金や厚生年金)と合算されて税金がかかります。この場合、「公的年金等控除」という制度が適用されます。一時金と比べると、税負担が大きくなるケースもあります。
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一時金と年金を組み合わせて受け取る
- 退職金の一部を一時金として受け取り、残りを年金として分割して受け取る方法です。
- 一時金としてまとまった資金を確保しつつ、残りを年金として計画的に受け取ることで、両方のメリットを享受できる可能性があります。
- 税制についても、一時金として受け取った部分には退職所得控除が、年金として受け取った部分には公的年金等控除がそれぞれ適用されます。
どの受け取り方が可能かは、勤務先の退職金規定や加入している年金制度によって異なりますので、まずはご自身の会社の規定を確認することが重要です。
退職金にかかる税金の仕組み
退職金には税金がかかりますが、税制上の優遇措置が設けられています。受け取り方によって税金の計算方法が異なります。
一時金で受け取る場合:退職所得控除
一時金として受け取る場合は、「退職所得」として計算されます。退職所得には「退職所得控除」が適用され、勤続年数に応じて一定額が非課税になります。
- 勤続年数20年以下の場合: 40万円 × 勤続年数(80万円に満たない場合は80万円)
- 勤続年数20年超の場合: 800万円 + 70万円 × (勤続年数 - 20年)
例えば、勤続30年の場合、退職所得控除額は 800万円 + 70万円 × (30年 - 20年) = 800万円 + 70万円 × 10年 = 800万円 + 700万円 = 1,500万円 となります。
課税される退職所得の金額は、【(退職金の額 - 退職所得控除額) × 1/2】で計算されます。控除額が大きいため、多くの場合、退職金の全額またはかなりの部分が非課税になる可能性があります。税額は、この課税退職所得金額に所得税率と住民税率をかけて計算されます。
年金で受け取る場合:公的年金等控除
年金として受け取る場合は、「公的年金等の雑所得」として計算され、公的年金(国民年金、厚生年金など)と合算されます。この所得には「公的年金等控除」が適用されます。
公的年金等控除額は、受け取る方の年齢や年金収入の合計額によって計算方法が変わります。一時金で受け取る場合の退職所得控除と比べると、一般的に控除額は少なくなる傾向があります。
税負担だけで見ると、多くの場合、一時金で受け取った方が有利になることが多いと言われます。しかし、年金で受け取ることで税金を繰り延べたり、計画的に収入を得られたりするメリットもあります。ご自身の退職金額や他の所得状況などを考慮して、慎重に判断することが大切です。
退職金の使い道を考える上でのポイント
退職金は、定年後の人生を支える貴重な資金源です。使い道を考える際は、以下の点を考慮すると良いでしょう。
1. 定年後のライフプランを具体的に描く
まずは、定年後にどのような生活を送りたいかを具体的に描いてみましょう。日々の生活費、趣味や旅行にかける費用、住居に関する費用(リフォームや引っ越しなど)、医療費や介護費用の備えなど、考えられる支出をリストアップしてみることが始まりです。
2. 老後資金全体の「見える化」と不足額の把握
退職金だけでなく、公的年金の見込み額、貯蓄、その他の資産(個人年金保険、iDeCo、NISAなど)を含め、老後資金全体を「見える化」することが大切です。そして、描いたライフプランを実現するために必要となる資金と、現在の資産との差額(不足額)を把握しましょう。この不足額を退職金でどう賄うか、あるいは退職金をどのように活用して不足額を補っていくかを考えます。
3. まずは「守り」を固める
退職金の使い道としてまず優先的に考えたいのは、将来の不安を解消するための「守り」の資金です。
- 当面の生活資金: すぐに必要になる生活費として、数年分の生活費を確保しておくと安心につながります。
- 病気や介護への備え: 予期せぬ大きな支出となる可能性があるため、ある程度のまとまった資金を準備しておくと良いでしょう。
- 住宅ローンの繰り上げ返済: 残りのローンがある場合、退職金で完済または大幅な繰り上げ返済をすることで、定年後の固定費を減らし、経済的な安心感を得られます。
4. 次に「攻め」(資産運用)を検討する
守りを固めた上で、余裕がある場合は、退職金の一部を資産運用に回すことも検討できます。退職金は比較的まとまった資金であり、上手に活用すれば、その後の資産を増やしていくことも可能です。
ただし、資産運用にはリスクが伴います。特に、これまで投資経験がない初心者の場合は、以下の点に注意して慎重に進めることが大切です。
- 無理のない範囲で: 生活資金や緊急予備資金には手をつけず、あくまで余剰資金で行いましょう。
- リスクとリターンを理解する: 資産運用には元本割れのリスクがあることを十分に理解した上で始めましょう。
- 長期・積立・分散を心がける: 短期間で大きな利益を得ようとせず、長期的な視点で、複数の資産に分散投資することを検討しましょう。
- 少額から始めてみる: いきなり大きな金額を投じるのではなく、まずは少額から始めて、資産運用に慣れていくのも一つの方法です。
- NISAやiDeCoの活用も検討: 非課税制度であるNISAやiDeCoを資産運用に活用することも有効な手段と考えられます。
具体的な運用方法については、ご自身の知識レベルやリスク許容度に合わせて慎重に選びましょう。
受け取り方や使い道で迷ったら専門家にも相談
退職金の受け取り方や使い道は、ご自身の状況によって最適な選択肢が異なります。税金計算も複雑に感じる場合があるかもしれません。
もし判断に迷う場合は、会社の担当部署や、金融機関の退職金相談窓口、ファイナンシャルプランナー(FP)などの専門家に相談することも検討してみてください。専門家は、税金や今後のライフプランなどを考慮に入れて、客観的なアドバイスをしてくれる可能性があります。
まとめ
退職金は、定年後の生活を支える上で非常に重要なお金です。受け取り方には一時金、年金、組み合わせの3つの方法があり、それぞれ税金の仕組みが異なります。どちらがお得かは一概には言えず、ご自身の退職金額や他の収入状況、そして今後のライフプランによって最適な選択が変わってきます。
退職金の使い道を考える際は、まずは定年後の生活設計を具体的にイメージし、必要な資金を把握することから始めましょう。そして、当面の生活資金や万が一の備えといった「守り」を固めた上で、余裕資金で資産運用などの「攻め」を検討するのが一般的な考え方です。
焦って決める必要はありません。ご自身の状況と将来の計画をじっくりと照らし合わせ、最も納得のいく方法を選んでください。この記事が、退職金について考える一助となれば幸いです。